新年、あけましておめでとうございます。
本年もどうぞ、よろしくお願いたします。
毎年恒例になっております、籠婆 松場登美の創作物語でございます。
新年を笑ってお迎えくださいませ。
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俗(続)他郷阿部家物語 令和四年版
流行り病は収まるどころか、おぞい変異株となって世間を騒がせておりました。
健気がモットーのおばあさんは、「ピンチはチャンス。今こそ、心の内にあたためていたあの計画を実行しよう!」と思い立ちました。
阿部家に新しい湯殿をつくるのです。
奥座敷にある苔むした坪庭から湯船につかって星空を眺められたら、お客様はどんなに喜んで下さるじゃろうと、想像するだけでわくわくしてくるのでした。
思い立ったら即実行がおばあさんパワー。
「よっ!さすが登美は逆境に強い女」と、相変わらず調子の良いおじいさん。
しかし、湯殿増築にあたり、おばあさんは悩みを抱えておりました。
それは、このところ自宅に改装工事で出入りしている職人、ワイルズはじめ君のこと。
三十歳と年は若いが、何事にも挑戦しようとする情熱と、既成概念にとらわれない自由な発想をもつ彼と、ねんごろな仲になり、彼に白羽の矢を立てたのでした。
しかし一方で、はじめ君に任せては、長年の恩義がある腕利きの棟梁に申し訳が立たない……。
悩みに悩んだ末、覚悟を決めたおばあさんは「まことにすまんことじゃが、この度の仕事は口も手も出さんで、若いはじめ君を見守ってくれんかのう」と深々と頭を下げて棟梁に頼み込んだのでした。
「登美さん、承知した。経験が浅いだけに心配じゃが、はじめ君にやらせてみようじゃないか。いよいよ困ったときにはいつでも応援するけんな」と棟梁。
ありがたいことじゃ、おばあさんは棟梁に手を合わせるのでした。
古民家の改修は、施主の思いと同時に家の意思が働くことが往々にしてある、と常々おばあさんは感じておりました。
特に今回の改修では、それを強く感じたのでした。
邪魔になる大きな銀木犀を切ろうとしたら、その銀木犀こそが美しい苔を守ってくれているのだと教えられ、残すことにしたこと。
湯殿にしようとした場所には、その昔来客用の湯殿があったこと。新しく移動したトイレの場所は、昔も厠があったこと。
自分の思いで改修したと思っていた今回の湯殿とトイレは、もともとの位置に戻ったということになります。
狐につままれたような、なんとも不思議な気がするおばあさん。
そしてこのところおばあさんの周りには、はじめ君しかり、老若男女ならぬ若若男女(にゃくにゃくなんにょ)が集まってきて、頼りにしてくれたり助けてくれたりでありがたいことじゃと、大喜びしているおばあさんなのでした。
めでたしめでたし。
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