俗(続)他郷阿部家物語 令和八年度版
俗(続)他郷阿部家物語 令和八年度版
昔々あるところに、毎日ワクワクしている、たいそうお茶目でお転婆なお婆さんがおりました。
近頃のお婆さんときたら、ますますウキウキとして、落ち着かないご様子だそうな。
どうなさったかと聞けば、理由は二つ。
一つは、長年の夢であった「終の住処(ついのすみか)」を
手に入れたこと。そこには立派なお蔵にお庭、
月見もできる高台(デッキ)まであるという。
もう一つは、愛犬の「福(ふく)」との日々を綴った
『とみとふく』という本を、世に出すことになったからじゃ。
しかも驚くことに、その本のお披露目は、
遥か彼方のお江戸は銀座で催されるというではないか。
これにはお婆さん、腰を抜かさんばかりに驚いたそうな。
睦月(一月)にはお江戸から「お越しくだされ」とお呼びがかかり、
「こりゃあ、いざ参上せねばならん!」と、お婆さんの胸はますます高鳴るばかり。
さらに、阿部家の蔵からから出てきた古い日記
-阿部光格(あべこうかく)様のものじゃ-を紐解いてみれば、
昔の暮らしぶりが次々と明らかになり、
今も昔も人の営みは変わらぬものだと、
お婆さんはただただ感心するばかりであったとさ。
さて、このところお婆さんには、さらに不思議な変化が起きておるそうな。
家に出入りする「デジタルの術」を使う男の入れ知恵で、
「インスタグラム」なる絵巻物にすっかり夢中。
それどころか、文を書くのにも筆は持たず、
「すまほ」という魔法の板に向かってブツブツと話しかけ、文を書いているというから驚きじゃ。
「若い衆には負けておれん」と、来年からは紙の年賀状をすっぱりやめて、
「えすえぬえす」とやらを使った挨拶に切り替えると心に決めたそうな。
これは世間で言う「年賀状仕舞い」などという寂しいものではない。
時代の波、「社会進化」という大きな船にひょいと乗り換えただけのこと。
「さすがお婆さん、やるねぇ〜!」
里の人々にそう言わせてみたい、お婆さんの可愛らしい野望じゃった。
めでたし、めでたし。
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